最終回案5回目
馬場は、外へ飛び出し、カタパルトに向かって走った。
そして、跳んだ。
馬場の体は、低い部分でも地上5メートルほどの高さにあるカタパルトのレールの上まで跳んだ。
馬場の持つ、重力制御装置は、不可能なジャンプを可能にする。
ただし、微妙なバランス調整は馬場にしか出来ない。
馬場は、レールの上に降り、そのまま、レールの先端に向けて走り出した。
空から、黒い何かが迫ってくる。
徐々に、それがはっきりと見えてくる。
黒い球体のようなもの。
その中に、黒い渦が巻いている。
馬場は、レールの先端に立ち、ポケットから何かの装置を取り出した。
その装置を、ガチガチと叩き、半ば壊すような形で、中から何かの部品を取り出した。
手のひらに収まるくらいの大きさの、白い球体が封じ込めてあるガラスの箱、に見える。
馬場は、そのガラスを叩き割った。
すると、中から出てきた白い球体が渦を巻き始め、風船がいっきに膨らむように膨らんだ。
その球体を、馬場は大きく手を広げて抱え込むように持った。
ゆっくりと、その球体をなでるように回してゆく。
白い球体。
馬場の作る永久機関の要であるコアである。
白いコアは、馬場の手の動きに会わせて回転をはじめる。
徐々にそのスピードが増す。
上空から、黒のコアが降下してくる。
黒い渦を巻きながらカタパルトに向かって一直線に。
その大きさは、馬場の持つ白いコアの数倍の大きさがあった。
黒のコアが、馬場にぶつかろうとするくらいに近づいた。
「止まれぇ!」
馬場は、白のコアを、両手で押し出すように黒のコアにぶつけた。
そして、さらに回転を加える。
黒のコアの渦とは反対方向に回転を加える。
ジ・・ジ・・・ジ・・・
少しであるが、黒のコアが歪んでいるように見えた。
「まだまだぁ!」
馬場が白のコアに回転を加え続ける。
一瞬、黒のコアの渦の動きが止まったように見えた。
「馬場バリア!」
馬場が叫んだ。
馬場の周囲を球状にバリアが展開する。
黒のコアが歪み、黒い粒子を撒き散らしながら壊れる。
その様子を見た所員たちが、勝利を確信した。
しかし。
「変だ」
と尾藤がつぶやいた。
「顔が、まだ、真剣だ」
馬場の表情は、黒のコアが霧散しようとしている今も険しいままだった。
「あと、馬場バリアの中に、あの、黒いやつも包まれてる」
尾藤はモニターを指差して言った。
黒いコアは、完全に霧散した。
そのとき、馬場はモニターの方を振り返り、所員に何かを言ったように見えた。
音声はないのでわからない。
一瞬だけ、いつもの馬場の表情に戻り、何かを言った。
そう、いつものように右手の親指を立てて。
次の瞬間、馬場がバリアをまとったまま、カタパルトから飛んだ。
空中で、バリアの中で霧散したコアが、馬場の持つ白のコアの中に取り込まれる。
牛乳の中に、墨汁をたらしたように、黒い渦が白のコアの中に広がってゆく。
馬場は、コアの回転を制御しつつ、少しづつ、コアを圧縮してゆく。
黒い渦を取り込みつつ、コアが小さくなってゆく。
コアの回転が緩やかになってゆく。
コアの大きさが変わらなくなった。
「まずい・・」
尾藤が言った。
所員の目が尾藤に注がれる。
「馬場ちゃんの永久機関って、科学的にどうこうじゃないんだよね。ほとんど、気合なんだよね。」
尾藤がぼそぼそと言った。
普段、あまりしゃべらずに黙々と仕事をする尾藤がしゃべっている。
「馬場ちゃんが、コアを作ってるの見たことがあるけど、高密度のエネルギーを宝珠の力を借りて、なんか、よくわかんないけど、多分気合みたいなもので圧縮するんだよね。」
尾藤の表情が曇り、少し泣きそうな顔になってきた。
「あのくらいの大きさになったら、一瞬でビー玉くらいの大きさになるんだけど。」
モニターの中の馬場は、一抱えくらいの大きさのコアを抱えたままである。
不意に、モニターの中の馬場は、コアを手放した。
そして、モニターに向かって両手を上げ。
そして、左手だけを下ろし、右手を振った。
「馬場ちゃん!」「所長!」「大将!」「馬場ぁ!」
所内がざわめく。
「ああ・・・やっぱ、吸収しきれなかったみたいですね・・・ダメでしたか。しょうがない。皆さん、後は任せました」
馬場は、だらり、と手を下ろした。
ポケットの中から、何かの装置を取り出し、スイッチを入れた。
「最後の手段、発動です」
馬場が手を離したコアが、ポン、とはじけた。
バリアの中が、黒い粒子でいっぱいになった。
そして、その粒子が、一斉に馬場の体を襲った。
「があああああああああ」
馬場が叫んだ。
黒い粒子が、完全に馬場の体を覆いつくす。
それを見たミキは、レッドスピーダーを降り、カタパルトを走る。
「馬場さん!」
馬場は、それを見て、叫んだ。
「ダメだ!戻るんだ!」
「でも、馬場さん!」
「いいから戻れ!突入作戦中のアクシデントだ!君は、君の持ち場へ戻れ!」
「馬場さん・・・」
「戻れ!も・・・ど・・・れ・・・」
馬場の体に異変が起こっていた。
黒い粒子が、馬場の体に付着し、馬場の体を歪めながら融合している。
馬場の体が変形を起こし始めた。
さらに、ビキビキを音を立てて、服を破りながら巨大化しはじめている。
バリアが解除された。
馬場の全身が獣毛に包まれ、バキバキと音を立てて骨格も変わってゆく。
頭、肩から、皮膚を突き破り、血を流しながら角のような突起が生えてくる。
「最初から、ああするつもりだったのかな」
所内では尾藤がつぶやき続けていた。
「馬場ちゃん、最初は、コアの逆回転で黒いヤツを止めて、吸収するつもりだったんだ。でも、それができなかったときには、バリアの中で、自分だけ悪意の波動にさらされるつもりだったんだ・・・」
なおも尾藤はつぶやき続けた。
そのとき、陣賀が席を立ち、尾藤の両肩をがっしり掴んでいた。
「尾藤さん!」
陣賀は、尾藤の研究室時代のライバルでもあり、ネズロンの幹部にもなった男、吉行と尾藤が決着をつけたときのことを思い出していた。
ネズロンの神官の正体が吉行と知ったとき、尾藤は混乱し、ぼそぼそとつぶやき続けた。
「ああ、馬場ちゃん、あんなになっちゃったよ・・・もう、怪獣みたいだ・・・」
吉行が、最後にネズロン粒子を取り込み、怪物化したときの光景は、尾藤の脳裏に深く刻み込まれ、その光景と、今の馬場の姿がだぶり、尾藤の混乱をさらに大きなものにしていた。
「尾籐さん!」
陣賀は、尾藤の肩を掴み、ゆすった。
そのとき、スピーカーから声が響いた。
「富士樹海の発射口から、オーブクローラーが浮上しました!」
「何!」”虎”がマイクに駆け寄った
「誰が操縦している?」
「無人です!」
”虎”がキーボードを叩く。
”虎”が見るディスプレイには、ふざけた文字で『馬場プロテクト!俺以外には誰も解除できない』と表示されている。
「馬場だ・・・。馬場が何かしようとしている」
今や怪獣、いや、ファンタジーの中の悪魔のような姿になった馬場。
身長は10メートルをゆうに越えていた。
富士樹海の格納庫から発進したオーブクローラー。
空母にも匹敵する大きさを持つ移動要塞である。
特務機関Kの所有する全てのマシンを搭載可能であり、宇宙航行も可能な機体である。
主力兵器は『馬場バスター』
オーブクローラー先端から、発射される弾丸が、攻撃対象の直前で展開し、中から馬場バリア発生装置、無数の小型ミサイルが発射される。
ミサイル着弾と同時に攻撃対象にバリアが貼られ、バリア内部で攻撃対象を殲滅する。
市街地での攻撃でも、ミサイルによる被害を最小限に抑えることができる。
オーブクローラーは、馬場バスターを準備しつつ、無人のまま、特務機関Kのある場所。
悪魔のような姿になった馬場に向かって進んでいる。
「馬場バスターが装填されています!」
スピーカーから聞こえる声で、所員は馬場の考えを理解した。
「馬場ちゃん、最初っからこうするつもりだったんだ・・・」
モニターを見つめつつ、尾藤が言った。
モニターの中の馬場は、悪魔のような姿になり、体を震わせながら立っている。
時おり、獣のような唸り声が聞こえる。
開放したい咆哮、開放したい暴力に耐えているようだ。
「馬場ちゃん・・・助けなきゃ」
尾藤のつぶやきが止まった。
尾藤の目に、自分の肩をゆすって「尾藤さん!」と叫んでいる陣賀の顔が映った。
尾藤は、陣賀の腕をポンと叩き、いつもの静かな表情に戻った。
「死なせないよ。」
ボソっと尾藤が言った。
陣賀の腕の力が、すっと抜けた。
「所長を止められるのは尾藤さんしかいませんから。」
陣賀が言った。
「うん。なんとかする」
尾藤は、所内の自分の席に着いた。
「司令、オーブロボのリモート操作権限をこちらにください」
「わかった」
尾藤がキーボードを操作する。
しかし、ディスプレイには『そう来ると思ったよ〜ん、馬場プロテクト!』というふざけた文字が表示された。
「でも、こうするとは思わなかったでしょ?」
尾藤は、さらにキーボードを操作した。
オーブロボ格納庫。
宝珠共振者が乗らなければその力は完全に発揮できないが、5割の力は出すことが出来る。
しかし、今はそのコントロールも馬場プロテクトで不可能である。
と思われたが。
ガタン!
と大きな音が響いた。
ヒュイーン、という音が響き、次第に大きくなる。
所内、尾藤の席。
「猫背、強制分離。単独飛行モード、変形!」
尾藤がマイクに向かって言った。
格納庫。
オーブロボの背中から、ランドセル状のバックパックが外れた。
尾藤の作ったオーブロボのパワーアップユニット、通称”猫背”である。
オーブロボの持つ合体変形機能は、内部構造に余裕が無く、パワーアップには外部ユニットが必要であった。
”猫背”自体が単独飛行形態になり、どんな場所にでも急行することが出来る。
その操作権限の最上位は尾藤にあった。
悪魔のような姿になった馬場は、体を震わせながらその場に立っていた。
動こうとする体を、少しだけ残っている馬場の理性が押さえつけている。
牙をむき出し、はぎしりをしている。
「うう・・・」
うめいた。
馬場の眼前に、オーブクローラーがあった。
オーブクローラーの先端のシャッターが開く。
ロケットのような弾丸が見える。
馬場は吼えた。
馬場の理性が安心し、野生が瞬間顔を出した。
馬場バスターが射出される。
悪魔の姿の馬場は、その弾丸に向かって拳を突き出した。
しかし、拳が当たる前に、弾丸は展開し、馬場バリア発生装置を射出した。
次にミサイルが飛ぶ。
そのとき、
格納庫から、飛行形態の”猫背”が垂直に飛び上がり、直角を描いて水平飛行に移る。
そのスピードは、まさに瞬間であった。
瞬間的、かつ、離陸スピードを落とさずに垂直飛行に移る。
有人機ではありえない動きである。
”猫背”は、オーブクローラーを飛び越し、今まさに、ミサイルを発射せんとする馬場バスターの展開部分にネットを射出した。
ガン、ガン・・・
ホーミングミサイルは、標的に向かおうとするが、馬場バスターごとネットに包まれる。
馬場鉄工所内。
また、歓声があがる。
「仕上げですよ」
尾藤は、キー操作をした。
「ま、また作ればいいことですし・・・」
尾藤が言った。
悪魔のような姿の馬場は、馬場バスターの馬場バリア発生装置に包まれている。
その前で”猫背”が、崩れ落ちるように見えた。
”猫背”が、空中で飛行形態からランドセル形態に変形しつつ、ボコっと何かのパーツを射出した。
パーツは、馬場に向かって飛ぶ。
”猫背”に唯一ついているレーザー砲が小さく光る。
馬場の目前で射出されたパーツが壊れ、中から白いコアが現れた。
それと同時に、強力な馬場バリアが展開される。
強力なバリアの中でもがく悪魔。
そして、その悪魔に、白のコアがぶつかる。
白のコアは、悪魔の体にめり込むように回転し始める。
黒い粒子が、白のコアに吸収され始める。
ランドセル形態の”猫背”が落ちて、崩れる。
「今回は、俺の勝ちでいいよね?馬場ちゃん」
尾藤がつぶやいた。
”猫背”を作る際に、馬場に協力してもらった部分。
猫背自体の移動のための動力としての永久機関。
馬場の組み込んだコア。
馬場に「このコアは特大ですからね」と言われたのを尾藤は思い出していた。
バリアの中で暴れる悪魔。
しかし、その大きさは、暴れるほどに小さくなってゆくようであった。
白のコアは、まるで消しゴムのように、黒い粒子を吸収しては、小さくなってゆく。
そして、白のコアが消滅する。
馬場は、元の大きさに戻っていた。
しかし、
その姿は、全身獣毛に覆われ、頭には角が生え、
手には長く伸びた鋭い爪。
脚は人間の脚ではない、獣の脚。
尾骨からは尾が生え、その先端は鋭くとがっていた。
この記事へのコメント
すげえ長文でしたが一気に読みましたよ。
今回も熱いですね。
敵の動きを留めた自分ごと切れ!ってのは太古からあるであろう王道ともいえるスタイルなんですがコアによる描写がそのスタイルをSFで新鮮なものにしてますね。
さらに封じこめようとした反動から獣化した大将ですが、理性はまだ戻っていないとみるのですがどうでしょう?
このあたりを取り戻すには愛だったり友情だったりが鍵になりそうですね。
>科学的にどうこうじゃないんだよね。ほとんど、気合なんだよね。
詰まるところモノづくりってのはどれだけ思いをこめれるかってことだとおもうんですよ。不思議なもんでそういうののないモノってのはやっぱり永く使えないんですよね。デジタルだとかなんだとか言ってますけどつまるとこ気合だったり人の思いだったりしますよね。
今回も熱いですね。
敵の動きを留めた自分ごと切れ!ってのは太古からあるであろう王道ともいえるスタイルなんですがコアによる描写がそのスタイルをSFで新鮮なものにしてますね。
さらに封じこめようとした反動から獣化した大将ですが、理性はまだ戻っていないとみるのですがどうでしょう?
このあたりを取り戻すには愛だったり友情だったりが鍵になりそうですね。
>科学的にどうこうじゃないんだよね。ほとんど、気合なんだよね。
詰まるところモノづくりってのはどれだけ思いをこめれるかってことだとおもうんですよ。不思議なもんでそういうののないモノってのはやっぱり永く使えないんですよね。デジタルだとかなんだとか言ってますけどつまるとこ気合だったり人の思いだったりしますよね。
>>獣化した大将ですが、理性はまだ戻っていないとみるのですがどうでしょう?
えー、そのへん”定石”ふまえてます。
で、やっぱ、愛とか友情とかが鍵であることは間違いないんですけど、序文でも書いたとおり「愛は反面残酷である」という持論がありまして、もうひとつ違った鍵を準備しております。
えー、そのへん”定石”ふまえてます。
で、やっぱ、愛とか友情とかが鍵であることは間違いないんですけど、序文でも書いたとおり「愛は反面残酷である」という持論がありまして、もうひとつ違った鍵を準備しております。
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