『すすきの純情ゴルファー翔』
第6回
さて、むちゃくちゃできる部分になってまいりました。
もう、深く考えずにひとつ。
第6回
さて、むちゃくちゃできる部分になってまいりました。
もう、深く考えずにひとつ。
第6回 『封』
18:30
札幌駅前バスターミナル
函館発の高速バスから”ひよりちゃん”が降りる。
翔一の好意で、足取りを追えないように長距離トラックで函館まで送ってもらった。
しかし、またすぐに札幌に戻ってきた。
昨夜のことである。
トシキからの電話。
「おまえがいないとダメなんだ」
「二人でやりなおそう」
「どこか遠くに行こう」
もっと、色んなことを言ったのかもしれないが、”ひよりちゃん”の耳にはそれしか残っていなかった。
今度こそやりなおせるかもしれない。
そんな希望を持って待ち合わせ場所に向かう。
待ち合わせ場所で待つトシキの姿を見て、”ひよりちゃん”の表情が少しやわらぎ、
トシキの後ろに立つ真っ赤なスーツを着た男の背中を見て、それが絶望の表情に変わった。
20:00過ぎ
下坂ゴルフの事務所。
翔一に電話がかかってきた。
「はい、寿司場です」
「あの・・・」
”ひよりちゃん”の声である。
「ああ、どう、そっちは?函館、イカうまいでしょ?」
「あの・・・、いえ・・・」
口ごもる”ひよりちゃん”に何か嫌な予感を感じた。
突然、電話が切れた。
その後ろで、何か金属が反響するような音と「何やってんだ!」という男の声。
ほぼ、翔一の想像通りのことが起こっているに違いない。
翔一は、携帯電話を取り出し、くろひげ店主に電話した。
「ああ、なおちゃん?あの、廃工場、車停まってるかとかわかる?」
数分とかからず、結果はわかった。
「そうか。ありがとう」
翔一は電話を切り、下坂ゴルフを出た。
すすきののはずれ。
倉庫である。
倉庫の大きな扉の脇に、玄関サイズのドアがある。
広々とした倉庫の中には赤いワンボックスカーと、ゴルフ練習用の機材。鉄アレイ。
壁にはゴルフクラブが立てかかっている。
翔一の家である。
倉庫の中の仕切られた一区画が、翔一の生活空間である。
その区画で、翔一は着替える。
黒のズボン、黒のワイシャツ、黒のゴルフカーディガン。
黒のゴルフキャップを目深に被る。
倉庫内の、ゴルフクラブが並ぶ中から、錆びたアイアンを2本手に取った。
古いアイアンである。
シャフトも太く、デザインも今風のゴルフクラブではない。
1番、5番
それらアイアンのシャフトの中央には『封』の文字の書かれたテープが貼られている。
「親父、また、使うことになっちまったよ」
翔一の脳裏には、血しぶきに染まったゴルフクラブが浮かんでいる。
消したくとも消えない記憶。
「翔一!!それはおまえの”何”だ?」
「でも、親父!」
「それを、そんなことに使うな!」
「でも・・・」
「それは、おまえの夢を勝ち取るための道具じゃないのか?おまえの決心は、そんなものだったのか?」
響く銃声。
倒れる男、翔一の父親。
ゴルフクラブを持って立ち上がる翔一。
銃声、怒号、血しぶき、血走った目、頭蓋骨が割れる音、その手応え。
静寂。
号泣。
遠い日のフラッシュバック。
翔一は、2本のクラブを小さめのゴルフバッグに入れ、肩にかついだ。
家から出る翔一。
表情は、目深に被ったキャップのせいでわからない。
人ごみの中を、パチンコ屋の前、いきつけの風俗店の前、ゲームセンター前を通り過ぎる。
ネオンと派手な看板。
まだ泥酔した客はいない時間。
なんで、俺は、わざわざ行くんだろう?
下手をすると、二度とここには帰ってこれないかもしれない。
でも、二度と俺のまわりの人間が死ぬのはイヤだ。
つくづく損な性分だ。
小娘一人に命を賭けて。
バカだ。
俺はバカだ。
バカで悪いか?
バカでいいじゃないか!
こんなバカにもすすきのの街は優しい。
翔一は、一歩一歩アスファルトを踏みしめる。
漢方くろひげ薬局前を通り過ぎる。
店のドアが開き、
「翔さん!」
くろひげ店主が、店の保冷ボックスから、そこに並んでいるドリンク剤とはあきらかに値段が違いそうなラベルのドリンク剤を取り出し、ほおりなげた。
翔一はそれをキャッチし、ギリっとキャップを開け、一気にのどに流し込んだ。
空き瓶をバシっと、くろひげ店主に手渡し。
「気合入ったよ。ありがとう」
ゴルフキャップのせいで、表情はよくわからないが、口元がニヤリと笑っている。
軽く右手を振って歩き出す翔一。
まるで、満足のいく打数でホールアウトしたときのような。
その背中を見送るくろひげ店主。
気づくと、訳知りのすすきのの住人たちも、同じようにその背中を見送っている。
翔一の姿がネオン街から遠ざかる。
住人たちは、それぞれの仕事場へ戻っていく。
少しだけ止まったすすきのの時間が、また動き出す。
ポプラ印製糖工場
工場内の広いスペースに、赤竜と、10人以上の黒いスーツ姿の男たち。
そして、縛られて、床に転がされているトシキ、”ひよりちゃん”。
赤竜は、携帯電話を持っている。
「はい、ガラはおさえましたが、やはり、商品は捨てられていました。」
赤竜の涼しげな声が工場内で反響する。
「はい、わかってます。責任は私にも・・・はい。それはじゅうぶん。」
そう言いながらも赤竜の顔は笑っていた。
「はい。明日、帰ります。”指”はそのときに。はい。」
赤竜は電話をパタンと折りたたみ、後ろのスーツの男に手渡した。
赤竜は、ゆっくりとトシキに近づいた。
しゃがみこんで、トシキの顔を覗き込む。
「おい、”指”だとよ・・・。」
赤竜がザッと立ち上がり、
「てめぇのせいだぞわかってんのかこのガキが!」
磨かれた革靴のつま先がトシキの腹にめりこむ。
「すいません」
うめき声にまぎれて聞き取れないが、トシキはそう言った。
赤竜は、スーツと同じ色の真っ赤なネクタイをするりとはずし,
投げ捨てた。
「ああああああああ、つまんねぇ!」
がしゃがしゃと頭を掻き毟る。
きれいにセットされた髪が乱れる。
「ああああああああ、北海道最悪!すすきの、つまんねぇ!」
乱れた髪をざっとかきあげる。
「ああああああああ、田舎モノ、使えねぇ!」
ガン、ガン、とトシキを蹴りつける。
トシキは、亀のように丸くなる。
「おい、オンナはダーツの的にするから。どっか立たせて、縛り付けといて。」
無言で黒スーツの男が動き、”ひよりちゃん”を立たせる。
「おい、てめぇのオンナは、的な。OK?」
赤竜はトシキの顔を覗き込む。
トシキは、半笑いで何度も小さくうなづいた。
それを見た瞬間、赤竜の形相が変わった。
「ああああああああ、田舎モノ、カッコ悪ぃぃぃぃぃ!」
トシキの顎を蹴り上げる。
トシキは、仰向けになり、意識を失った。
「こういうときさぁ、普通さぁ、『俺がかわりになりますから、オンナは助けてください』だろ?ちがう?普通そうだよな?」
黒スーツの男たちを振り返り、赤竜が言った。
「ああ、どうしようかな?オンナいたぶっても面白くねぇな。さっさと殺してすすきのぶっ壊しに行くか?」
そのとき。
工場入り口から悲鳴とも嗚咽ともつかない声がした。
ダンッ
と、工場のドアが開く。
そこに立つ、黒い人影。
人影の足元に転がる数人の男。
人影の手にはゴルフクラブ。
赤竜は、その姿に目を凝らした。
「おいおい、もしかして、来てくれるかなぁ?って思ってたけど」
黒い人影、翔一はゴルフクラブのグリップの先で、ゴルフキャップのつばを持ち上げた。
ゆっくりと、歩き始める翔一。
「生まれも育ちもすすきので、ソープランドで産湯をつかり、タバコの前に乳房を覚え」
ザっと飛び出す黒スーツの一人。
翔一は、瞬間的にアイアンを構え、スイング。
アイアンは、床に転がるボルトを捕らえ、ボルトは飛び出してきた男に眉間に当たる。
「ちょいわけありで内地も行ったが、気が付きゃ元のすすきの暮らし」
ボルトを眉間に当てられ、ひるみはしたものの、覚悟と慣れが違う相手である。
すぐに、翔一に飛び掛ってきた。
翔一は、クラブを左脇に構えた。
グリップを前に。
右手でシャフト中央を持ち、左手はヘッドあたりを持つ。
右足を軽く前に出し、腰を落とす。
グリップを突き出す。
ヘッドの重さで、自然に突き出したグリップが跳ね上がるような動きをする。
向かってくるグリップを受けようとした手は空を切り、死角からスーツの男の顎を跳ね上げる。
ガクっと崩れ落ちる男。
「出会った女は不幸にさせねぇ。それがオイラの・・・」
翔一は、倒れた男に右足をのせ、赤竜を睨みつけた
「すすきの純情!」
翔一の声が響き渡る。
黒スーツの男たちが動きを止める。
”ひよりちゃん”が小さな声で「翔さん・・・」とつぶやく。
大きな拍手がした。
赤竜が、てのひらに十分空気を溜めて、拍手をしている。
唇はつりあがり、目はらんらんと輝き、喜色が満面に浮かんでいる。
「いい!あんた最高!正義の味方じゃん?ねぇ、正義の味方じゃん?」
小躍りするかのように赤竜が翔一と距離を取る。
「えと、こんなとき、悪役としては何を言えばいいんだっけ?なぁ、えと、そうだ!『俺と組まないか?』だっけ?違うな・・・、そうだ『おまえら!やっちまいな!』だね!」
一斉に動き出す黒いスーツの男たち。
翔一は、あたりを見回し。ゴルフバックを工場設備の突起にひっかける。
まず2人が同時にかかってきた。
一人を突き出したグリップでけん制し、そのまま、クラブをぐるりと回転させる。
ヘッド部分が後ろの男の頭を打つ。
杖術
というものがある。
剣とは違い、杖本体の至る所を使う武術である。
打つ、なぎ払う、突く。
棒状の物を武器として使うことを極めた武術である。
翔一は、その基本の部分の心得がある。
けん制して動きを止めた男の横っ面をなぎ払い、打ち据える。
ゴルフクラブは重心がヘッドにある。
決してバランスの良い棒ではないが、そのバランスを味方につければ、打ち下ろすスピードで、打ち上げることもできる。
一人がナイフを取り出した。
さらに、日本刀らしきものを手にした男がいる。
翔一は、1番アイアンの中央の『封』と書かれたテープを指でちぎった。
グっとねじるようにヘッドを回す。
カチリ・・・。
と音がする。
ナイフの男がナイフを突き出し、走る。
1番アイアンが中央から二つに分かれる。
ヘッド部分でナイフを叩き、
柳葉包丁のような細い刃を持つグリップ部分を振り下ろす。
男の顔に、一文字の赤い筋がつく。
日本刀を持った男たちは、するり、と鞘を抜いた。
すでに、むやみに飛びかかる者はいない。
じりじり、と間合いをつめてくる。
ここからが本番である。
第6回 終
18:30
札幌駅前バスターミナル
函館発の高速バスから”ひよりちゃん”が降りる。
翔一の好意で、足取りを追えないように長距離トラックで函館まで送ってもらった。
しかし、またすぐに札幌に戻ってきた。
昨夜のことである。
トシキからの電話。
「おまえがいないとダメなんだ」
「二人でやりなおそう」
「どこか遠くに行こう」
もっと、色んなことを言ったのかもしれないが、”ひよりちゃん”の耳にはそれしか残っていなかった。
今度こそやりなおせるかもしれない。
そんな希望を持って待ち合わせ場所に向かう。
待ち合わせ場所で待つトシキの姿を見て、”ひよりちゃん”の表情が少しやわらぎ、
トシキの後ろに立つ真っ赤なスーツを着た男の背中を見て、それが絶望の表情に変わった。
20:00過ぎ
下坂ゴルフの事務所。
翔一に電話がかかってきた。
「はい、寿司場です」
「あの・・・」
”ひよりちゃん”の声である。
「ああ、どう、そっちは?函館、イカうまいでしょ?」
「あの・・・、いえ・・・」
口ごもる”ひよりちゃん”に何か嫌な予感を感じた。
突然、電話が切れた。
その後ろで、何か金属が反響するような音と「何やってんだ!」という男の声。
ほぼ、翔一の想像通りのことが起こっているに違いない。
翔一は、携帯電話を取り出し、くろひげ店主に電話した。
「ああ、なおちゃん?あの、廃工場、車停まってるかとかわかる?」
数分とかからず、結果はわかった。
「そうか。ありがとう」
翔一は電話を切り、下坂ゴルフを出た。
すすきののはずれ。
倉庫である。
倉庫の大きな扉の脇に、玄関サイズのドアがある。
広々とした倉庫の中には赤いワンボックスカーと、ゴルフ練習用の機材。鉄アレイ。
壁にはゴルフクラブが立てかかっている。
翔一の家である。
倉庫の中の仕切られた一区画が、翔一の生活空間である。
その区画で、翔一は着替える。
黒のズボン、黒のワイシャツ、黒のゴルフカーディガン。
黒のゴルフキャップを目深に被る。
倉庫内の、ゴルフクラブが並ぶ中から、錆びたアイアンを2本手に取った。
古いアイアンである。
シャフトも太く、デザインも今風のゴルフクラブではない。
1番、5番
それらアイアンのシャフトの中央には『封』の文字の書かれたテープが貼られている。
「親父、また、使うことになっちまったよ」
翔一の脳裏には、血しぶきに染まったゴルフクラブが浮かんでいる。
消したくとも消えない記憶。
「翔一!!それはおまえの”何”だ?」
「でも、親父!」
「それを、そんなことに使うな!」
「でも・・・」
「それは、おまえの夢を勝ち取るための道具じゃないのか?おまえの決心は、そんなものだったのか?」
響く銃声。
倒れる男、翔一の父親。
ゴルフクラブを持って立ち上がる翔一。
銃声、怒号、血しぶき、血走った目、頭蓋骨が割れる音、その手応え。
静寂。
号泣。
遠い日のフラッシュバック。
翔一は、2本のクラブを小さめのゴルフバッグに入れ、肩にかついだ。
家から出る翔一。
表情は、目深に被ったキャップのせいでわからない。
人ごみの中を、パチンコ屋の前、いきつけの風俗店の前、ゲームセンター前を通り過ぎる。
ネオンと派手な看板。
まだ泥酔した客はいない時間。
なんで、俺は、わざわざ行くんだろう?
下手をすると、二度とここには帰ってこれないかもしれない。
でも、二度と俺のまわりの人間が死ぬのはイヤだ。
つくづく損な性分だ。
小娘一人に命を賭けて。
バカだ。
俺はバカだ。
バカで悪いか?
バカでいいじゃないか!
こんなバカにもすすきのの街は優しい。
翔一は、一歩一歩アスファルトを踏みしめる。
漢方くろひげ薬局前を通り過ぎる。
店のドアが開き、
「翔さん!」
くろひげ店主が、店の保冷ボックスから、そこに並んでいるドリンク剤とはあきらかに値段が違いそうなラベルのドリンク剤を取り出し、ほおりなげた。
翔一はそれをキャッチし、ギリっとキャップを開け、一気にのどに流し込んだ。
空き瓶をバシっと、くろひげ店主に手渡し。
「気合入ったよ。ありがとう」
ゴルフキャップのせいで、表情はよくわからないが、口元がニヤリと笑っている。
軽く右手を振って歩き出す翔一。
まるで、満足のいく打数でホールアウトしたときのような。
その背中を見送るくろひげ店主。
気づくと、訳知りのすすきのの住人たちも、同じようにその背中を見送っている。
翔一の姿がネオン街から遠ざかる。
住人たちは、それぞれの仕事場へ戻っていく。
少しだけ止まったすすきのの時間が、また動き出す。
ポプラ印製糖工場
工場内の広いスペースに、赤竜と、10人以上の黒いスーツ姿の男たち。
そして、縛られて、床に転がされているトシキ、”ひよりちゃん”。
赤竜は、携帯電話を持っている。
「はい、ガラはおさえましたが、やはり、商品は捨てられていました。」
赤竜の涼しげな声が工場内で反響する。
「はい、わかってます。責任は私にも・・・はい。それはじゅうぶん。」
そう言いながらも赤竜の顔は笑っていた。
「はい。明日、帰ります。”指”はそのときに。はい。」
赤竜は電話をパタンと折りたたみ、後ろのスーツの男に手渡した。
赤竜は、ゆっくりとトシキに近づいた。
しゃがみこんで、トシキの顔を覗き込む。
「おい、”指”だとよ・・・。」
赤竜がザッと立ち上がり、
「てめぇのせいだぞわかってんのかこのガキが!」
磨かれた革靴のつま先がトシキの腹にめりこむ。
「すいません」
うめき声にまぎれて聞き取れないが、トシキはそう言った。
赤竜は、スーツと同じ色の真っ赤なネクタイをするりとはずし,
投げ捨てた。
「ああああああああ、つまんねぇ!」
がしゃがしゃと頭を掻き毟る。
きれいにセットされた髪が乱れる。
「ああああああああ、北海道最悪!すすきの、つまんねぇ!」
乱れた髪をざっとかきあげる。
「ああああああああ、田舎モノ、使えねぇ!」
ガン、ガン、とトシキを蹴りつける。
トシキは、亀のように丸くなる。
「おい、オンナはダーツの的にするから。どっか立たせて、縛り付けといて。」
無言で黒スーツの男が動き、”ひよりちゃん”を立たせる。
「おい、てめぇのオンナは、的な。OK?」
赤竜はトシキの顔を覗き込む。
トシキは、半笑いで何度も小さくうなづいた。
それを見た瞬間、赤竜の形相が変わった。
「ああああああああ、田舎モノ、カッコ悪ぃぃぃぃぃ!」
トシキの顎を蹴り上げる。
トシキは、仰向けになり、意識を失った。
「こういうときさぁ、普通さぁ、『俺がかわりになりますから、オンナは助けてください』だろ?ちがう?普通そうだよな?」
黒スーツの男たちを振り返り、赤竜が言った。
「ああ、どうしようかな?オンナいたぶっても面白くねぇな。さっさと殺してすすきのぶっ壊しに行くか?」
そのとき。
工場入り口から悲鳴とも嗚咽ともつかない声がした。
ダンッ
と、工場のドアが開く。
そこに立つ、黒い人影。
人影の足元に転がる数人の男。
人影の手にはゴルフクラブ。
赤竜は、その姿に目を凝らした。
「おいおい、もしかして、来てくれるかなぁ?って思ってたけど」
黒い人影、翔一はゴルフクラブのグリップの先で、ゴルフキャップのつばを持ち上げた。
ゆっくりと、歩き始める翔一。
「生まれも育ちもすすきので、ソープランドで産湯をつかり、タバコの前に乳房を覚え」
ザっと飛び出す黒スーツの一人。
翔一は、瞬間的にアイアンを構え、スイング。
アイアンは、床に転がるボルトを捕らえ、ボルトは飛び出してきた男に眉間に当たる。
「ちょいわけありで内地も行ったが、気が付きゃ元のすすきの暮らし」
ボルトを眉間に当てられ、ひるみはしたものの、覚悟と慣れが違う相手である。
すぐに、翔一に飛び掛ってきた。
翔一は、クラブを左脇に構えた。
グリップを前に。
右手でシャフト中央を持ち、左手はヘッドあたりを持つ。
右足を軽く前に出し、腰を落とす。
グリップを突き出す。
ヘッドの重さで、自然に突き出したグリップが跳ね上がるような動きをする。
向かってくるグリップを受けようとした手は空を切り、死角からスーツの男の顎を跳ね上げる。
ガクっと崩れ落ちる男。
「出会った女は不幸にさせねぇ。それがオイラの・・・」
翔一は、倒れた男に右足をのせ、赤竜を睨みつけた
「すすきの純情!」
翔一の声が響き渡る。
黒スーツの男たちが動きを止める。
”ひよりちゃん”が小さな声で「翔さん・・・」とつぶやく。
大きな拍手がした。
赤竜が、てのひらに十分空気を溜めて、拍手をしている。
唇はつりあがり、目はらんらんと輝き、喜色が満面に浮かんでいる。
「いい!あんた最高!正義の味方じゃん?ねぇ、正義の味方じゃん?」
小躍りするかのように赤竜が翔一と距離を取る。
「えと、こんなとき、悪役としては何を言えばいいんだっけ?なぁ、えと、そうだ!『俺と組まないか?』だっけ?違うな・・・、そうだ『おまえら!やっちまいな!』だね!」
一斉に動き出す黒いスーツの男たち。
翔一は、あたりを見回し。ゴルフバックを工場設備の突起にひっかける。
まず2人が同時にかかってきた。
一人を突き出したグリップでけん制し、そのまま、クラブをぐるりと回転させる。
ヘッド部分が後ろの男の頭を打つ。
杖術
というものがある。
剣とは違い、杖本体の至る所を使う武術である。
打つ、なぎ払う、突く。
棒状の物を武器として使うことを極めた武術である。
翔一は、その基本の部分の心得がある。
けん制して動きを止めた男の横っ面をなぎ払い、打ち据える。
ゴルフクラブは重心がヘッドにある。
決してバランスの良い棒ではないが、そのバランスを味方につければ、打ち下ろすスピードで、打ち上げることもできる。
一人がナイフを取り出した。
さらに、日本刀らしきものを手にした男がいる。
翔一は、1番アイアンの中央の『封』と書かれたテープを指でちぎった。
グっとねじるようにヘッドを回す。
カチリ・・・。
と音がする。
ナイフの男がナイフを突き出し、走る。
1番アイアンが中央から二つに分かれる。
ヘッド部分でナイフを叩き、
柳葉包丁のような細い刃を持つグリップ部分を振り下ろす。
男の顔に、一文字の赤い筋がつく。
日本刀を持った男たちは、するり、と鞘を抜いた。
すでに、むやみに飛びかかる者はいない。
じりじり、と間合いをつめてくる。
ここからが本番である。
第6回 終
この記事へのコメント
あああ、トシキ、駄目すぎ。
翔さんの口上がカッコイイなぁ。
でも、
「ソープランドで産湯をつかり」
リアルだとちょっとイヤ。w
翔さんの口上がカッコイイなぁ。
でも、
「ソープランドで産湯をつかり」
リアルだとちょっとイヤ。w
トシキ、もう、ダメダメですね。
ここまでダメダメになるとは書き始めた当初は思いもしませんでした。
口上ね、やりたかったんですよ。
ダサかっこいいセリフにしたかったんですよ。
ここまでダメダメになるとは書き始めた当初は思いもしませんでした。
口上ね、やりたかったんですよ。
ダサかっこいいセリフにしたかったんですよ。
私はひよりちゃんの方がダメですわ。
こういう女性って映画とかによく出てきますよね。
そいつのせいで主人公死ぬとかなると、かなり嫌いになりますわ。
こういう女性って映画とかによく出てきますよね。
そいつのせいで主人公死ぬとかなると、かなり嫌いになりますわ。
いやそれもわかる。
”ひよりちゃん”を狂言回しにするために、ダメ女にするのが一番なんですよ。
むかつくよね?トシキも”ひよりちゃん”も。書いててむかついてきたから、トシキ、蹴りまくられることにしましたし。
”ひよりちゃん”を狂言回しにするために、ダメ女にするのが一番なんですよ。
むかつくよね?トシキも”ひよりちゃん”も。書いててむかついてきたから、トシキ、蹴りまくられることにしましたし。
うんうんうん、ダメもとでも、嘘でも
俺が代わりになりますから……とか言って欲しかった
でも実際やると、真っ先に命おとしてそうだけど、ね
俺が代わりになりますから……とか言って欲しかった
でも実際やると、真っ先に命おとしてそうだけど、ね
やっぱ、男ならそういきたいところですけど、多分、実際、こんな目にあったら、ダメダメになっちゃうかもしれないですね。
でも、赤竜に突っ込ませることで、ちょっとまた赤竜が魅力的に見せることができたのは収穫。
でも、赤竜に突っ込ませることで、ちょっとまた赤竜が魅力的に見せることができたのは収穫。
2005/06/29(水) 11:57 | URL | すしバー #-[ 編集]
いいですね、口上。
更に「すすきの純情!」で
りっぱに見得を切った様が目に浮かびます。
更に「すすきの純情!」で
りっぱに見得を切った様が目に浮かびます。
2005/06/29(水) 13:09 | URL | フジコ #-[ 編集]
「なんで風俗行きまくってて純情なのよ?」って自分でも考えちゃって。どうしようか悩んだけど、「すすきの純情」っていう、主人公のポリシーにしちゃえって感じで言わせちゃいました。
カメラ3方向くらいからパンパンパン!って切り替わってね。
カメラ3方向くらいからパンパンパン!って切り替わってね。
2005/06/29(水) 13:17 | URL | すしバー #-[ 編集]
「なんで風俗行きまくってて純情なのよ?」シロートに対してはってことでしょうか?
ひよりちゃんのバカっぷりはVシネそのものですねぇ。トシキもダメだけど、それ突っ込む赤竜がなんかよかった。
ああ、コメントかぶってごめんなさい(;´・雛ノl
ひよりちゃんのバカっぷりはVシネそのものですねぇ。トシキもダメだけど、それ突っ込む赤竜がなんかよかった。
ああ、コメントかぶってごめんなさい(;´・雛ノl
2005/06/29(水) 14:36 | URL | ひよこ #bM4TJFTs[ 編集]
うん、というかね、そのへん完全に第7回ではっきりさせたんです。
純情=純愛じゃない。ってことで。
色んなものにまっすぐに当たるのが翔一流の『純情』なんですよ。きっと。
純情=純愛じゃない。ってことで。
色んなものにまっすぐに当たるのが翔一流の『純情』なんですよ。きっと。
2005/06/29(水) 15:58 | URL | すしバー #-[ 編集]
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